トップページ > IHECについて > 過去のご挨拶 (2011-2018)

過去のご挨拶 (2011-2018)

牛島 俊和
CREST「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究領域 副研究総括/国立がん研究センター研究所 エピゲノム解析分野・分野長)

ヒトゲノムの解読完了から10年、疾患の原因となる遺伝子の研究は着実に進みました。同時に、多くの疾患や生命現象に関わる細胞内の遺伝子のふるまいは、DNAの塩基配列だけでなくエピゲノムによって大きく影響を受けることがわかってきました。

生きものがもつDNAの塩基配列の情報全てを「ゲノム」とよびます。対して「エピゲノム」は、1つ1つの細胞の中で、何万個もある遺伝子のうちどれを使いどれを使わないのかをコントロールする「目印」全てをいいます。目印の正体はDNAにつけられる化学的な修飾で、DNA塩基のメチル化、DNAに巻きつくヒストン蛋白質のメチル化・アセチル化などがあります。

例えば、胃の細胞と皮膚の細胞では、細胞の中に入っているゲノム情報は同じです。それなのに違う種類の細胞になれているのは、両者のエピゲノムの状態が違うからです。

また、遺伝子の突然変異で発生するといわれるがんでは、タンパク質を作る遺伝子を端から端まで調べても原因となる突然変異が見つからない場合があります。慢性炎症が関係するがんでこのような場合が多く、エピゲノムに異常がおき、それによってがんが起きている可能性が高いと考えられます。エピゲノムの情報はがんの診断に有用であることがわかっていますし、エピゲノムの異常を元に戻す薬剤は既に血液の腫瘍の治療に利用されています。がん以外の疾患でも、腎臓・代謝疾患、精神・神経疾患、アレルギー・免疫疾患、産婦人科疾患など、様々な疾患にエピゲノムが関わることがわかってきています。

エピゲノムは細胞の種類、個々人の年齢や生活習慣によって異なるため、解析が必要な情報は膨大なものになります。一方で、この情報は、さまざまな疾患や生命科学研究に大いに役立つと期待されています。国際ヒトエピゲノムコンソーシアム日本チームは、世界各国と国際協調し、解析すべき細胞を分担し、共通の手法で効率的にデータを収集し、世界の財産として公開していきます。同時に、日本の国際競争の源泉ともなるエピゲノム研究を推進し、国民の皆さんの期待にこたえていきます。