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IHECについて

国際ヒトエピゲノムコンソーシアムThe International Human Epigenome Consortium(IHEC:通称アイヘック)は、様々な病気や生命現象に関わるヒトエピゲノムの情報を世界各国の研究者で協調・分担して解析し、いまだかつてない高精度のヒトエピゲノム地図をつくることを目的とした国際的な研究組織です。IHECは2010年に始動し、現在は日本も含めた複数の国と地域がIHECに正式参加しています。IHECの参加メンバーは、解析する細胞・組織を分担し、解析技術を標準化し、アウトリーチ活動も一緒に行い、研究を推進しています。

日本では、2014年度まで科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)が、2015年度からは研究領域を継承した日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST/PRIME)がIHECを支援しています。IHEC日本チームは、2011年から2018年までCREST「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究領域として、2019年からAMED-CREST/PRIME「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」研究領域として参加しています。このIHEC日本チームウェブサイトでは、研究成果をはじめとして、エピゲノム研究に関する幅広い情報を研究者から広く一般の方に向けて発信していきます。

IHECの目的と役割

IHECのこれまでの成果とこれからの目的(2019年現在)
2011年~2019年の間に438種類の完全エピゲノムと2,458種類の部分エピゲノムを解読しました。その成果は、世界各国の研究者が活用できるように、IHEC Data Portal (https://epigenomesportal.ca/ihec/)から公開されています。新たなデータ解析方法の開発や応用研究にも取り組み、初期の成果はCell誌とその姉妹誌に特集として2016年に41報の論文が掲載されました。その成果は、がん、腎臓・代謝疾患、神経変性疾患、アレルギー・免疫疾患、幹細胞とその分化、細胞のリプログラミングなど、さまざまな疾患・生命科学研究の基盤となっています。

現在、IHECは第2期の目標として、1) 得られたエピゲノムデータから新たな生命の原理を解明する手法の開発、2) ヒトの健康や疾患に関する重要な情報を引き出すこと、そして、3) まだ不足している標準エピゲノムデータを拡充することを掲げ、カナダを中心に米国・欧州・アジア各国が協力してその実現に取り組んでいます。

ご挨拶

佐々木裕之佐々木裕之
(AMED-CREST/PRIME「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」領域(2019年〜) 研究開発総括/九州大学生体防御医学研究所 エピゲノム制御学分野・主幹教授)

エピゲノムは、1つ1つの細胞の中で何万個もある遺伝子のうちどれを使い、どれを使わないのかを決める「目印」の総体をいいます。分子的にはDNAのメチル化やヒストンタンパク質の各種修飾と、それに基づくクロマチン高次構造の容態をエピゲノムとよびます。エピゲノムの異常はがんをはじめとする様々な疾患を引き起こしますが、その異常を元に戻す薬剤が血液の腫瘍などの治療に有効なことが示され、すでに臨床応用されています。

日本は2011年にIHECに参画し、3チームがCREST「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」領域の支援を受け、国際協調研究に大いに貢献しました。その後、2019年よりAMED-CREST/PRIME「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明(早期ライフ)」領域がその研究開発目標と予算の範囲内で、IHECの目的に合致するプロジェクトを支援していくことになりました。IHECも第2期に入り、単一細胞解析、時間軸を含めた核内動態の解明、人工知能を用いたモデリングや予測、そしていっそうの疾患解明への貢献と目標がシフトしました。新たに参画した日本のAMED-CREST、PRIMEチームも大いにこれらの課題にチャレンジして、以前にも増してIHECに貢献してくれると思います。

エピジェネティクス、エピゲノムは現代の医学生物学において欠かせない概念・研究分野になりました。「早期ライフ」領域では胎児期〜青少年期までの環境刺激への生体応答が、同時期〜成人期以降の健康に影響を与えるメカニズムの解明と、それによって引き起こされる疾患の予防法、治療法の開発を目指していますが、その切り口のひとつがエピゲノムです。IHECへの貢献を含めて、「早期ライフ」領域によるシーズ開発が、日本の、いや世界の将来の世代の健康の向上に貢献できるよう、みなさんとともに本領域を推進したいと思います。

過去のご挨拶 (2011-2018)